月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “七月だからサ”


今日から七月です。
早いですねぇ。
よく 六月の頭に
“もう六月ですか、半分ですか”なんていうトークを、
番組の枕に持って来るアナウンサーの方がおいでですが、
一年のうちの半分が“過ぎた”と言いたいならば、
むしろ こっちが相応しいのではないでしょか。

 「そういうの、屁理屈とか揚げ足取りって言うんだぞ。」
 「だな。メディアの世界は何でも前倒しだし。」

ううう、
叔父さんと甥っ子の二人掛かりで、言いつのらんでも ええやんか。

 「そういや雑誌もサ、
  “何月何日号”っていうの、たいがい一カ月前倒しだもんな。」

 「おお、よくぞ気がついたなルフィ。」

 「……気がつかいでか。
  俺、これでももう高校生なんだぞ?」

馬鹿にすんなよなーと、
たちまち ふわふかの頬っぺを
プンプクプーと膨らませてしまった甥御さんであり。

  おいおい、早くも仲間割れでしょうか。(笑)




     ◇◇◇



変梃子りんな枕(ツカミ)で申し訳ございません。
梅雨入りが発表された途端、全くの全然降らないお天気が続き、
今年は空梅雨かと思わせといて。
今度は突然、台風に刺激されての大雨が襲い来たりしと。
相変わらずに、地上の人々を翻弄し続けの“お天気 天下”が続く中。
気がつきゃ、カレンダーは新しい月を迎えていたりし。
多少の暑い寒いも堪えぬ若いのは…といえば、
五月の頭のGW以降、これという行事がないせいだろか、
夏休みまで遠いよなぁなぞと うっかり平板に過ごしてしまうものだから。
それは折り目正しくも、月曜から始まる七月なのだと
気がついたときには 時すでに遅かったりもし。

  『うあぁ、しまった〜〜〜っ!』

バイト先のシフト表はいつも週末更新で。
週末の上がる折に
“来週は用事あんのか? 部活あんのか?”という一応の確認を
叔父さん店長がじきじきに確認取ってくれるのへ。
特に行事もなし祭日も無しと来て、
来週もいつも通りでいいよと言い掛かったものの。
レジから売り上げなどが上がって来るのを統括しているコンピューターやら、
契約農家の皆様へ直結しているファックスやらが、
仰々しくも数台ほど居並ぶ 事務所のデスクの上にあった、
ご近所の薬局のらしい卓上カレンダーを見やった途端、
青果コーナーの看板坊やが、
まずは二度見し、それから、先の大絶叫を上げたのでございまし。

 『え?』
 『どしたどした、ルフィ。』
 『店長にセクハラされたか。』
 『それともパワハラか?』
 『お前らなぁ〜〜〜

夜勤シフトの社員の方々が、
交替にと丁度来合わせていた時間帯だったものだから。
滅多なことでは動じないお元気坊や、
一体何へそんなに慄いたのかと、
好き勝手を口々にご披露してのちょっとした騒ぎとなったほど。


  ………で、その真相はと言えば。


 『俺、来週テストだった。』

だろうよな、他の高校生たちは全員今週の頭から休んどるぞと。
副店長のベンさんが、けろりと言って下さったという
この時期にはお馴染みの一幕があったとか。

 「お馴染みじゃねぇわい。」

夏休み前の期末考査は、
赤点取ったら夏休みへ補習ってカッコで食い込むんだぞ、と。
それが一番に口惜しいらしくての、ぎりぎりと歯軋りしつつ。
試験前、ほぼ秒読み状態の中、
大慌てで復習に勤しむ週末を送る羽目となっておいでの
ルフィ坊ちゃんだったりする。

 「大体、六月のカレンダーの仕様からしてズッコイよなぁ。」

丁度、自分のお部屋の机の上にも、
事務所で見たのと同じタイプ、12枚綴の卓上カレンダーが置いてあり。
それを今更ながらも あらためてチラ見。
というのも、
六月は日曜で終わりという巡りになっていたので、
最後の一日だけのためもう1行を取るのは効率が悪いとばかり、
前の週との同居扱いにされていて。

 「次の月の日にちが、
  余りの余白へ出て来てねぇんだもん。」

例えば七月だと
八月の“1日、2日、3日”が、
薄いめの印刷で前倒し的に顔を出しているように。

 「そういう先触れがあったなら、
  もちょっと早めに気がつけたのによ〜。」

なんていう、
何とも我儘な、不平というか不満というかをこぼしつつ。
それでも丸暗記だけは頑張るぞと、
いつもならその暗記用のカードなりシートなりを作る日にちがあったもの、
今回はその分の日数さえ足りないという逼迫状態の中、
数学ならば公式や定理、英語なら構文、
歴史は大事件のあった年号と人物の名前、
古文なら教科書の書き込みが多いページを丸ごと…という具合に、
それなり結構ツボは心得たお勉強に、
突貫ながらも取り掛かっておいでだったりし。

 だあもうっ、
 何でこんな似たような名前の武将が続くんだ。
 兄弟なのかな、兄弟で揉めるなよな、いい大人がよ、と

傍観者席から見ている分にはなかなかに笑える独り言つきの
それでも…真っ当なお勉強を真っ向から手掛けておいでっというのは
この腕白くんにはあまりに意外で珍しいことよと。
感じ入ってたお人が此処にもおわし、

 「お〜い、陣中見舞いだぞ〜。」

蒸し暑いからとドアを全開にしていた坊やのお部屋を
上体を倒す格好で覗き込んで来たのは、

 「なんだ、サンジか。」
 「あ、ご挨拶だねぇ。」

金髪に色白ななかなかの美丈夫さんで、
この季節には見た目も涼しいところがますます人気の従兄のお兄さんが。
前髪に添えるように立てた二本指で、
敬礼を模しての、チャースという軽い挨拶を送っておいで。
こっちを向こうともしない、随分つれない従弟の坊やへ、

 「せっかくお土産持って来てやったのによ。」
 「食いもんなら 後だ後。」

  …………………はい?

 「おおおおおっ、お前もしかして熱ないか。」
 「うっせぇなっ

素っ気なくされたことよりも、この食いしん坊がそれって何事よと、
天変地異の前触れ扱いでサンジさんが驚いて見せたのも、
まま無理はなかったかも。

 「だってお前、盲腸で入院したときだって、
  手術前からの絶食の方がきつかったって言ってて。
  麻酔が切れたのも痛くねぇ、それより早くメシ食いたいって、
  入院してた病院の看護婦さんたちを
  ざんざん困らせた伝説持ってるくせしてよ。」

 「う〜〜〜〜。////////」

この数年ほど、直接会う機会も減ってた相手からさえ、
そんな記憶で印象づけられているほどの、
筋金入りの食いしん坊。

 それが、
 勉強優先だ差し入れは後なんて言い出したんだから

 「大人になったねぇ、うんうん。」

長袖のシャツ、腕まくりしてという
しゃれた着方をしているその腕で、
わざとらしくも目元を拭う真似をする年嵩の従兄さんへ、

 「邪魔すんだったら帰れよな。」

いやいやいや、
本気も本気らしい、真摯な真面目さを帯びた一言まで出る始末なのへと、
その行儀の善さげな手に持参した、
ケーキだろうか持ち手つきの化粧箱をちろりんと見下ろした金髪のお兄様。

 「これも持って帰れってか?」
 「そうは言ってねぇけどさ。」

おや、口ごもりつつもそれなりの反応が。

 “だよなぁ。”

勉強に熱心なのは確かに悪いことじゃあないけれど、
この坊やに関しては、何とも折り合いの悪い取り合わせだよなと、
それこそ久々に逢ったという身でも、違和感を覚える構図であり。

  ただ…勉強というより、夏休みが関係するのなら
  合点のいく“理由”が1つだけ

一戸建の自宅の2階の一角、
一丁前に自分の個室をいただいての、
使い慣れたる学習机へ向かっておいでの坊やなのへ。
後頭部しか見せてくれないのも何のその、
しばしその場へ佇んでいたサンジさん。
階段の方から足音が上がって来たのを振り返り、

 「あのな、ルフィ。
  俺の差し入れはケーキだけじゃないんだがな。」

 「え?」

トントントンという小気味のいい足音は、
ちょっとのんびり屋の両親のそれとも違ったし、
兄のエースは今日も遅出で、まだ帰って来るはずなかったし。
あれあれ、じゃあ誰だろと、首を回してドアのほうを見やったならば。

 「こんちはっす。」
 「〜〜〜〜〜っっ!!///////」

お、いい反応じゃね?とサンジが苦笑し、
バッタンと倒れた椅子に、お客人が目を見張り。
それほど勢いよく立ち上がったルフィさんといえば、

 「なななな、なんで? なんで?」
 「だからよ。突貫の一夜漬けもいいが、
  それにしたって覚えやすい方法ってもんがあろうよと思ってな。」

小学生時代から忘れ物の多かったルフィだったし、
九九の覚えも悪かったのが、
大好きなアニメの 100種は居ようというキャラクターは全部を言えてた。
好きなものなら苦もなく覚えられるというならば、

 「この兄ちゃんに読み合わせを付き合ってもらや、
  おなじ丸暗記でも効率がいいんじゃね?」

肩の後ろ、立てた親指で指した先にいたのは、
違う高校へ通っておいでで、しかも学年も違うはずの剣道男子、

 「…ぞろ。」
 「そういうワケなら、俺でも手伝えるかと思いまして。」

好きなものなら…というところは、
ルフィにだけ聞こえるような小声で言ったので、
剣豪青年には伝わってないようだったけど。
バイト先からの帰り道、
ヒッチハイクを模してか、
道端で“to LUFFY”なんてなプラカード持ったサンジに捕まり、
此処までを軽トラで送らせた彼の、そんな小意気な魂胆なんてもの、
ゾロの方でも今の今 判ったらしくって。

 「じゃ、そういうこったから。」

ケーキはいつでも食えばいい、
俺は下で叔母ちゃんに挨拶したら帰るからと。
去り際もカッコよかった、従兄弟のお兄さんの
“差し入れ”が、ほんに効果をもたらせばいんですがね。


  あんな、あんな? 俺、夏休みもバイトすっからサ。

  おや。俺も特に予定はないから通いますよ?

  そか。ならいい。////////


楽しい夏休みにするためには、
目の前の試練を 頑張れ頑張れだぞと。
カレンダーに印刷された、七夕かざりの金の星が
きらりん光った夏の宵だったそうでございます。





   〜どさくさ・どっとはらい〜  2013.07.01.


  *え? もう七月かぁ早いなぁとビックリしたのは、
   何を隠そう私でございます。
   この調子だとあっと言う間に秋が来て、
   明日にでも師走になっちゃうのよ。(あくまで感覚的に…)


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